~助けたいという衝動~

第三話では、「生きること」と「信頼」を描きました。

そして今回。

物語は一歩、外へ踏み出します。

テーマはシンプルです。

「目の前の不幸に、手を伸ばすかどうか」

ただし今回は、うまくいきません。

むしろ――
うまくいかないこと自体が、この回の意味になります。

それでは前編です。


第四話(前編)――夜の広場

夜の町は、昼よりも騒がしかった。

松明の火が揺れ、怒号と笑い声が入り混じる。
酒の匂いと、汗の匂いと、どこか焦げたような空気。

その中心。

広場に組まれた木の台の上に――

鎖につながれた人々が並べられていた。

「……あいつら」

レイは屋根の陰から、歯噛みするように見下ろしていた。

見覚えがある。

忘れるはずがない。

あの檻の中で、同じ時間を過ごした人間たちだ。

隣で、ユリウスが小さく息を呑む。

フードの奥。

暗がりでもわかるほど、瞳が細く、縦に裂けていた。

「ねえ、レイ……」

ためらいがちに、それでも逃げない声。

「助けられないかな」

レイは、すぐには答えなかった。

「……簡単に言うなよ」

低く、押し殺した声。

「あいつら、まだお前のこと探してる。捕まったら――」

「それでも」

ユリウスは、フードを握りしめる。

「ぼく、何も悪いことしてない」

正論だった。

あまりにもまっすぐで、逃げ場のない言葉。

レイは舌打ちし、頭をかいた。

「……チッ」

数秒。

視線はずっと、広場に固定されたまま。

「……分かったよ」

ユリウスが顔を上げる。

ぱっと光が差したみたいに、表情が明るくなる。

「ありがとう、レイ!」

「声でけぇ! 舌出すな!」

ちろ。

「出すなって言ってんだろ!」

思わずツッコミが飛ぶ。

そのやり取りが、ほんの少しだけ、張り詰めた空気を和らげた。


計画は単純だった。

単純すぎるくらいに。

ユリウスが囮になる。

蛇人の姿を隠さず、わざと目立つ。

その隙に、レイが裏から回り、鍵を奪う。

成功率なんて、考えていない。

ただ――

やらない理由が、なかった。

段取りを決めた二人は、町外れの丘を落ち合う場所に決めた。


広場の端。

人目の少ない影の中で、ユリウスは一人、立ち止まっていた。

(……こわい)

胸の奥で、はっきりとした声がする。

足が、動かない。

(やっぱり、やめようかな……)

視線の先には、松明の光。
怒号。鎖の音。

あの中に、入る。

わざと目立つ。

捕まるかもしれない。

――いや、きっと捕まる。

(無理だよ……ぼく……)

喉が乾く。

手が震える。

逃げ出したい。

今すぐ、レイのところに戻って、
「やっぱりできない」って言ってしまえばいい。

それでいいはずなのに。

「……」

ぎゅっと、フードを握りしめる。

頭に浮かぶのは、檻の中の光景。

助けを求める目。

声にならない声。

そして――

「……ありがとう、レイ!」

さっき、自分が言った言葉。

あのときの、レイの顔。

(……認められたかった)

ほんの少しでいい。

“守られる側”じゃなくて。

“隣に立てる存在”として。

「……」

息を吸う。

ゆっくり吐く。

まだ、怖い。

逃げたい気持ちも消えない。

それでも。

「……やる」

小さく、でも確かに口にする。

まだ怖い。
逃げ出したい気持ちは消えていない。

それでも――

ユリウスは、ゆっくりと手を上げた。

フードの端を掴む。

ほんの一瞬、躊躇する。

(……大丈夫)

誰に言うでもなく、心の中で呟く。

そして――

するり、と。

フードが外れた。

月光が、素顔をなぞる。

鱗が、淡く浮かび上がる。

縦に裂けた瞳が、静かに開く。

ざわり、と空気が揺れた。

まだ誰も、声を上げていない。

けれど、その気配だけで十分だった。

ユリウスは、一歩、踏み出す。

(逃げない)

(逃げない……!)

その決意だけを握りしめて。


(後編へ)

投稿者
管理人の頭の中に潜む、想像の源的な存在。

イメー人A

小さいころから、頭の中で物語を想像し、そのストーリーの中の登場人物と自身を重ね合わせては、ニヤニヤしていた怪しい過去を持つ者です。 時代は進化し、AIの技術は発展してきました。 子供の頃になしえなかった、頭の中の物語を、AIの助けを借りながら、カタチにしてみたいと思い、このブログを立ち上げました。

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